脳卒中後上肢機能障害に対する経頭蓋直流刺激のレビュー

J Hand Ther. 2012 Sep 7. [Epub ahead of print]

A Meta-analysis of the Efficacy of Anodal Transcranial Direct Current Stimulation for Upper Limb Motor Recovery in Stroke Survivors.

 
脳卒中後上肢運動回復に関してM1への陽極直流刺激の効果をメタアナリシスした論文です.2012年5月までの論文をデータベースから集め,両側刺激や対側陰極刺激を除いた8研究が対象となりました.Sham条件と比較して,Jebsen-Taylor hand function testやReaction time, pinch strength, box and block testのエフェクトサイズを見ると,SMDが平均0.49と中等度の効果量でした.PEDroスコアは高い研究ばかりでしたが,サンプルが多くて13/13,介入はほとんどsingle session, follow-upもなし,ADLやQOLへの汎化もあまり検討なし,まあとりあえず研究室ベースの研究が多いとのことです.また,方法論やアウトカムの統一やその種類も課題ありです.臨床的なpragmaticな研究は最近ちょくちょく報告されていますが,rTMSと効果量は大きく変わらないような気がしてます(ほとんどの研究がpre-postで20%前後!?).私自身は中等度から重度の上肢運動障害の方に対して何らかの応用ができないかと強く思っています.そのためにはtDCS単独単発ではダメで,組み合わせる運動療法やその組み合わせ方,治療計画を含むプログラムの進め方,当然病態に合わせた対応なんかが重要だと思っています.どんな治療法もそうですが最終的に永続的な変化にもっていかないとあまり意味はないと思いますので,tDCSで可塑性を誘導した状態で適切な課題,文脈,量によって長期増強に導く・・・.とは言うものの脳はそんな単純ではないわけで,当然興奮もあれば抑制もあり課題によっても行動によっても企図によっても軌道によっても活動パターンは変わるわけで,本当にM1上にオンラインで陽極刺激だけでいいものか,どういった運動療法や他の治療モダリティーとどのようなタイミングで組み合わせるのがベストかを考えていかないといかないのかなと思います.そうでないと組み合わせ方によっては逆効果も考えられますし,現に健常者であればパフォーマンスがかえって低下する報告もされています(畿央大松尾先生論文参照).しかしながら,tDCSはTMSよりかは格段に安全で安価というメリットがあります.一方で,安全性に関してもまだまだ不明な点はあります.そんな中,未だFDAや薬事法でも認可されていない現状を考慮し,上肢とくに手指の機能改善を目指して将来を見据えたきちんとした研究計画のもと研究を進めていく必要性を感じました.「運動と脳」をもう一度読み直します・・・