運動器リハビリテーション

運動器疾患に対するジクロフェナクナトリウムを用いたイオントフォレーシスについて

治療概要

 イオントフォレーシスは、経皮吸収剤の浸透性を向上させ、局所部位に薬剤分子をより多く浸透させるために直流電流を用いる薬剤輸送システムです。経皮吸収剤とはローションやゲルといった形状の薬剤で、経皮吸収剤を患部に塗った場合、薬剤分子は患部の皮膚表層にある角質層を通過し患部に送達されます。経口で鎮痛剤を服用した場合には消化器系の副作用が生じることが報告されていますが、経皮吸収剤には副作用の発生率を低く抑えるという利点があります。イオントフォレーシスを実施する際に用いる直流電流は、薬剤の分子が角質層をより通過させやすくし、より多くの薬剤の分子が患部に送達されるという利点があるため、経皮吸収剤のみの適用と比較して、より薬剤の浸透性が向上することが期待されています。さらに、消化器系の副作用も低く抑えることができます。イオントフォレーシスを適応した場合、副作用として皮膚が荒れることがありますが、副作用を減らすための特殊な電極も開発されています。
有痛性疾患に対するイオントフォレーシスの目的は、患部に送達される薬剤分子の量を増やすことで、より鎮痛効果を得ることです。
 イオントフォレーシスは、一般的なリハビリテーションで用いる治療と同様に、主治医や担当症例との密な連携が必要ですが、各症例の痛みの強さ、部位などを正確に評価する必要があるため、理学療法士の評価技術が必須であると考えています。

対象と適応

変形性膝関節症、関節リウマチ、肩関節周囲炎、外側上顆炎、足底腱膜炎、他。

方法

図1 変形性膝関節症患者へのイオントフォレーシスの実施場面
図1 変形性膝関節症患者へのイオントフォレーシスの実施場面

イオントフォレーシスを実施する場合、電極を設置する部位の皮膚を十分に清拭することが重要だと考えています。清拭をすることで、皮膚表層の角質を可能な限り除去し薬剤が浸透しやすいようにします。
まず、イオントフォレーシス専用電極に薬剤を塗布し治療部位に設置します。電極の設置方法は、先行研究によると輸送電極は治療部位に、分散電極は輸送電極から15cm程度離れた筋腹に設置されていますが、我々は、直流電流の適応に伴う薬剤の浸透流を考慮して電極を設置しています (図1)。

イオントフォレーシスの治療パラメータは下記の通りです。
使用薬剤 : 私たちは、ジクロフェナクナトリウムを使用しています。ジクロフェナクナトリウムはイオントフォレーシスを適応した場合に浸透性が向上すると言われています。使用する薬剤によって輸送電極の極性が異なるために注意が必要です。ジクロフェナクナトリウムはマイナスの電荷を持つ薬剤ですので、輸送電極の極性をマイナスに設定します。薬剤の極性と輸送電極の極性を同一にすることで反発作用を起こすことが重要です。この反発作用によって、薬剤を皮膚内部に浸透させることができます。


電流の種類 : 直流電流


電流強度と治療時間 : 一般的に電流強度は、イオントフォレーシスを実施した場合の薬剤の総投与量を表す、"電流強度×治療時間" を考慮します。例えば、電流強度が2mAで治療時間が20分である場合、総投与量は40mA-minとなります。この総投与量は、40mA-min以上で80mA-minが推奨されています。総投与量を考慮して、電流強度と治療時間を決定します。

 

治療効果

図2 fentanyl ITS®
図2 fentanyl ITS®

有痛性運動器疾患の症例にジクロフェナクナトリウムを用いたイオントフォレーシスを実施した場合には、鎮痛効果を期待することができます。 fentanyl ITS (図2) は、術後の疼痛を軽減するためのイオントフォレーシスの専用機器で、既に海外で製品化されています。

禁忌と副作用

図3 イオントフォレーシス専用電極(Chattanooga社製ionto ) 右が輸送電極、左が分散電極である。輸送電極の中央は綿状で、ここに薬剤を塗布する
図3 イオントフォレーシス専用電極(Chattanooga社製ionto ) 右が輸送電極、左が分散電極である。輸送電極の中央は綿状で、ここに薬剤を塗布する

治療部位の皮膚に問題がある場合にはイオントフォレーシスは禁忌です。また、使用薬剤の禁忌事項に該当する場合も禁忌です。
副作用は、皮膚荒れや火傷が報告されています。これは、直流電流を皮膚に適応する場合に生じる、皮膚の生理的なpHが変化するために生じると考えられています。しかし、この皮膚の生理的pHの変化を抑えるための電極が既に開発されています (図3) 。

参考文献

1) Dixit N, Bali V, Baboota S, et al. : Iontophoresis - An approach for controlled drug delivery : A review. Current Drug Delivery 4 : 1-10, 2007
2) Gurney AB, Wascher DC : Absorption of dexamethason sodium phosphate in human connective tissue using iontophoresis. Am J Sports Med 36 : 753-759, 2008
3) S. Grond, J. Hall, A. Spacek et al.: Iontophoretic transdermal system using fentanyl compared with patient-controlled intravenous analgesia using morphine for postoperative pain management. Br J Anaesth 98: 806–15, 2007

 

 

 

 

 

 

主たる研究者 : 肥田光正