神経リハビリテーション


末梢神経感覚電気刺激

治療概要

脳損傷患者の運動麻痺を中心とした上下肢機能障害に対し,末梢神経電気刺激によって運動野や感覚野の興奮性を増大させ,可塑性変化による機能向上を目的とする治療法であります。理論背景として,長時間(1-2時間)の感覚閾値強度の末梢神経電気刺激によって,刺激神経に対応した同名筋の運動誘発電位(MEP)の増大,つまり運動野の興奮性の増大が生じることが報告されています。末梢神経感覚刺激によって嚥下筋,上下肢筋の興奮性の増大が生じる他,ピンチ力や筋力,手指の巧緻性や上肢粗大機能の改善も報告されており,そのメカニズムは長期増強による可塑的変化であると考えられています。脳損傷患者の他,意識障害や認知症に対しても応用されています。

※現在,上記で紹介している末梢神経感覚刺激は,各研究者によって末梢神経刺激 peripheral nerve stimulation (PNS), 体性感覚刺激 somatosensory stimulation (SS), 感覚刺激 sensory stimulation (SS), 末梢神経電気刺激 peripheral nerve electrical stimulation (PNES)など様々な用語で表記されています。

対象と適応

脳卒中,頭部外傷含む脳損傷後運動障害を有する患者,意識障害患者,認知症患者

方法


② 下肢機能向上を目的とする場合

 

 下肢機能に対する感覚刺激による最適な刺激パラメータの報告は少なく,まだ方法論が確立されていません。 Ngらは下肢に感覚刺激を実施しながら課題指向型練習を行うことで,歩行能力や痙縮の改善が見られたと報告しています。

求める生体反応によって刺激強度,波形,パルス幅,周波数,刺激部位,刺激時間の選択が重要と考えています。

 

① 手指を中心とした上肢機能向上を目的とする場合

  刺激波形 : 単相矩形波(single square pulse)もしくは非対称性二相性パルス波
  パルス幅 : 1ms
  周波数  : 10Hz
  刺激部位 : 正中神経・尺骨神経同時刺激
  刺激時間 : 1~2時間
  刺激強度 : 感覚閾値以下~運動閾値以下(筋収縮が視覚的に確認できず,痛みのない程度)

 

 電気刺激単独でもピンチ力の改善などの即時効果が報告されていますが,運動と組み合わせるとより上肢機能の改善には効果的とされています。

 

禁忌と副作用

禁忌については一般的な電気刺激療法と同じです(ペースメーカーまたは不整脈,頚動脈洞上の電極設置,静脈および動脈血栓症または血栓性静脈炎の範囲,妊娠の腹部-腰背部)

感覚障害や皮膚過敏症,心疾患,精神機能に障害のある患者様に対しては注意して電気刺激を適用する必要があります。

副作用は電気熱傷,電極による皮膚反応,疼痛です。

参考文献

  1. Effects of peripheral sensory nerve stimulation plus task-oriented training on upper extremity function in patients with subaute stroke a pilot randomized crossover trial(Ikuno, et al, Clinical Rehabilitation, 2012)
  2. Sensory Electrical Stimulation for Recovery of Hand and Arm Function in Stroke Patients A Review of the Literature(Ikuno, et al, J novel Physiotherapies, 2012)
  3. 脳卒中患者に対する1時間の末梢神経電気刺激と課題指向型練習の組み合わせが上肢機能に与える影響(生野ら,理学療法学,2010)
  4. 脳卒中後運動障害に対する末梢神経感覚刺激療法について(生野ら,理学療法学,2011)
  5. 慢性期脳卒中患者の上肢機能に対する末梢神経電気刺激と課題指向型練習の影響--シングルケーススタディ(生野ら,日本物理療法学会誌,2010)