透析中よく問題になるのが透析中の低血圧です.透析前,中,後の低血圧は生命予後に大きく影響を及ぼすとされております(Shoji,2004).透析中低血圧を予防するために様々な物理療法が用いられています.代表的なものに空気圧マッサージ(ハドマー,メドマー等)があります.これらは下肢圧迫により静脈還流を促すことで血圧を増大させるという試み(スターリングの法則)です.しかしながら,先行研究では相反するエビデンスが報告されており,未だその効果は不明です.
他のモダリティーはどういったものがあるのでしょうか?理論的に有効だと考えられるのはもちろん電気刺激です.下腿三頭筋への電気刺激により筋ポンプ作用を利用して静脈還流を促すという方法です.この方法はDVTの予防など古くから実施されておりましたが(高取ら,2003,http://ci.nii.ac.jp/naid/110003993177),近年透析中における応用が試みられています.
下肢に対する電気刺激にて循環動態がどう変わるか,この視点では先ほどのDVT含め,心疾患,末梢動脈疾患など様々な疾患に応用されています.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23312939
J Vasc Surg. 2013 Mar;57(3):714-9.
Calf muscle stimulation with the Veinoplus device results in a significant increase in lower limb inflow without generating limb ischemia or pain in patients with peripheral artery disease.
Abraham P, Mateus V, Bieuzen F, Ouedraogo N, Cisse F, Leftheriotis G.
この研究は,腓腹筋への電気刺激が,末梢血管疾患PAD患者の動脈血流と組織酸素含有量への効果を検証しています.結果,筋虚血または疼痛を誘発せずに動脈血流を有意に増大させたと報告されています.しかし,PAD患者の歩行量改善の補助的な治療手段として使用できるかはまだ明らかではありません.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19169019
Blood Purif. 2009;27(1):58-63.
Enhancing hemodialysis efficacy through neuromuscular stimulation.
Madhavan G, Nemcek MA, Martinez DG, McLeod KJ.
この報告では下腿三頭筋に周波数45Hzにて電気刺激を8週間実施しており,透析中に除水率の改善と血圧降下の緩徐に寄与した可能性を示しています.
当研究会の北裏真己,吉田陽亮は透析患者への電気刺激療法の予備的研究を実施しております.予備的研究では健常者に対する下肢への10分間の電気刺激にて有意な血圧の増大,一回拍出量の増大を確認しました.今後,透析中の低血圧予防と身体機能改善に対するリハビリテーションの実現に向けて,症例への実施例を含め逐次ご報告できればと考えております.
Levine M, McElroy K, Stakich V, Cicco J.
Orthopedics. 2013 Mar;36(3):e319-24.
Stevens-Lapsley JE, Balter JE, Wolfe P, Eckhoff DG, Kohrt WM.
Phys Ther. 2012 Feb;92(2):210-26.
Petterson SC, Mizner RL, Stevens JE, Raisis L, Bodenstab A, Newcomb W, Snyder-Mackler L.
Arthritis Rheum. 2009 Feb 15;61(2):174-83.
Avramidis K, Karachalios T, Popotonasios K, Sacorafas D, Papathanasiades AA, Malizos KN.
Orthopedics. 2011 Mar 11;34(3):175.
以上の4つの研究から要点をまとめると
NMESのメリットは
1)患者は、適切な強度で随意的な筋力増強訓練ができない術直後に随意収縮の障害を呈している。
2)NMESは自己管理でき、毎日効果的に実施できる。
3)NMESは適切な用量にて、筋力、身体機能、健康面で劇的かつ持続的な改善をもたらす
こととまとめられています.
我々の研究会でも,TKA後,ACL後の筋力増強にNMESを付加する研究を実施しております.大和橿原病院の吉田先生らによる研究において,TKA後感覚刺激NMESにおいても刺激なし群と比較して術後有意な筋力の改善を認めております(日本物理療法学会会誌,in press)
この感覚刺激は上記研究のNMESよりも痛みが少ない(ほぼない)ため,患者さんの受け入れがよく,コンプライアンスを高める方法としてはアリなのではと考えております.
研究成果は順次HPにアップしてまいります.
Towards a mechanism-based view on post-stroke shoulder pain: theoretical considerations and clinical implications.
Roosink M, Renzenbrink GJ, Geurts AC, Ijzerman MJ.
激務で勉強会内容のご報告がおろそかになってしまい,申し訳ございません.激務はただの言い訳です.今年は復習もかねてしっかりアップしたいと思います.
というわけで,新年一発目.健常者に対するGVSと肩の痛みに関するレビューです.GVSはマニアックすぎるのでもう少しまとまってから報告いたします.
オランダの研究者Roosink氏によるレビューとここ五年の脳卒中後肩の痛み(post-stroke shoulder pain: PSSP)についてレビューしました.以下に要点を書きます.
•現在のところ,Post-stroke shoulder pain(PSSP)のメカニズムの理解について未だ明確ではない
•理論的に,PSSPは侵害受容性,または中枢性神経因性疼痛かその両方であるとされる
•加えて,PSSPの始まりの責任機構はそれが持続する機構と異なるかもしれない
•この関係は脳卒中後疼痛の診断と治療の関係に問題を投げかける
•しかし,PSSPにおいて報告されたそれぞれの症例は単に脳損傷や上肢の軟部組織の損傷がPSSPの患者の主要な要因を占めていると考えられている
•軟部組織損傷は患者自身による管理の不足に組み合わさって脳卒中後の神経筋制御の低下によって生じる可能性があり,結果として体性感覚や認知機能の障害も認める
•上肢の運動障害は多くの日常生活を遂行するために運動の自由度が多く,そのため損傷する傾向にある
•そして,外傷はたびたび,反復する微細な,あるいは持続的な微細損傷によって軟部組織損傷が生じる
•加えて,不活動の長期化や代償の使用,痛みによる非正常な運動パターン,運動制御の低下は結果として痛みを侵害疼痛の進行に寄与する
•長期的な侵害受容は脊髄と上脊髄ニューロンレベルの両方で構造的再構成を生成する.
•感作が永続的になるように無害の刺激でさえ痛みになる
•加えて持続的な侵害受容(刺激?)はDNICの永続的活性化につながる可能性があり,結果として内因性抑制が無効になる
•脳卒中後中枢性疼痛は脳卒中による感覚入力の欠如が直接的な抑制の欠如,もしくは増大した上脊髄侵害受容の促通によるものである可能性がある
•一方で,脳損傷は脊髄侵害受容の促通もしくは脱抑制を引き起こす.また,情動や認知や自律神経の変化も生じさせる
•認知(注意)や情動(不安)は二次的な慢性疼痛に移行させる可能性があり,結果として患者の社会環境(対人関係)の変化を引き起こし,疼痛行動の増加やPSSPの持続に寄与する
この病態を示すわかりやすいモデル図がこの文献には提示されています.
リハ介入は不使用,無視,感覚障害,運動麻痺,情動,自律神経系,麻痺側の管理,早期の鎮痛などどのあたりに介入すべきかをわかりやすく解説してくれています.各病期によっても病因が異なってくることも注目すべきことだと思います.
その他の文献もレビューしましたのでご参考までに.
Stroke. 2007 Feb;38(2):343-8.
Shoulder pain after stroke: a prospective population-based study.
Lindgren I, Jönsson AC, Norrving B, Lindgren A.
Eur Neurol. 2011;66(3):175-81.
Enhanced-MRI and ultrasound evaluation of painful shoulder in patients after stroke: a pilot study.
Pompa A, Clemenzi A, Troisi E, Di Mario M, Tonini A, Pace L, Casillo P, Cuccaro A, Grasso MG.
J Rehabil Med. 2012 Jun 7;44(7):553-7.
Sonography and physical findings in stroke patients with hemiplegic shoulders: a longitudinal study.
Pong YP, Wang LY, Huang YC, Leong CP, Liaw MY, Chen HY.
J Physiother. 2013 Dec;59(4):245-54.
Combined arm stretch positioning and neuromuscular electrical stimulation during rehabilitation does not improve range of motion, shoulder pain or function in patients after stroke: a randomised trial.
de Jong LD, Dijkstra PU, Gerritsen J, Geurts AC, Postema K.
ClinRehabil. 2012 Sep;26(9):807-16.
Functional orthosis in shoulder joint subluxation after ischaemic brain stroke to avoid post-hemiplegic shoulder-hand syndrome: a randomized clinical trial.
Hartwig M, Gelbrich G, Griewing B.
Stroke. 2013 Nov;44(11):3136-41.
Suprascapular nerve block for shoulder pain in the first year after stroke: a randomized controlled trial.
Adey-Wakeling Z, Crotty M, Shanahan EM.
当院でも5年間のカルテから肩の痛みの有病率を算出しましたが,約38%と先行研究とよく似た結果になりました.かといって明確な介入ができていないのが現状です.肩の痛みはその後の機能予後やQOLに影響を与え,メンタル面にも大きな影響を及ぼします.脳卒中患者さんの主要な問題点の一つですが,これといってまだ決定打がありません.何とかこの問題を解決すべく研究を続けていきたいと思います.
現在、FES(機能的電気刺激)は脳卒中患者の運動障害の改善に用いられています。元々はFESはあくまで機能再建として用いられていました。いわゆる補装具と同類と考えらえ、神経補綴
neuroprosthesisとも表現されます。しかしながら、脳の可塑性変化やFESの治療的効果が確認されるとともに、徐々に治療的な使用としてのFESが多く用いられるようになってきました。
すでにFESがFESでなくなってきており(笑)、NMESやTESなど用語の統一を図るべきかもしれません。
話はそれましたが、テクノロジーの進化に伴いFESも劇的に変化してきてます。個人的には、機器の発達と病態のメカニズムの解明、効果の生理学的メカニズム、臨床現場の現実的問題それらがうまくかみ合っていない印象を受けます。我々は理学療法士という立場から実際の臨床の問題点や患者さんの声を聞いて、それを解決する研究を実施しなくてはなりません。その視点を大切にし、今既存のFESを用いて様々な可能性を調査しています。まだまだ問題点は山積みですが、いずれ必ずや臨床現場で活きるFESの報告をしていきたいと思います。
今回小嶌先生がレビューした論文です。ご参考までに。
Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):239-46.
Contralaterally controlled functional electrical stimulation for upper extremity hemiplegia: an early-phase randomized clinical trial in subacute stroke patients.
Knutson JS, Harley MY, Hisel TZ, Hogan SD, Maloney MM, Chae J.
Neurorehabil Neural Repair. 2009 May;23(4):357-65.
Bilateral upper limb training with functional electric stimulation in patients with chronic stroke.
Chan MK, Tong RK, Chung KY.
Arch Phys Med Rehabil. 2007 Jul;88(7):833-9.
Upper-extremity functional electric stimulation-assisted exercises on a workstation in the subacute phase of stroke recovery.
Kowalczewski J, Gritsenko V, Ashworth N, Ellaway P, Prochazka A.
Neurorehabil Neural Repair. 2007 May-Jun;21(3):207-15.
Functional electrical stimulation enhancement of upper extremity functional recovery during stroke rehabilitation: a pilot study.
Alon G, Levitt AF, McCarthy PA.
Stroke. 2010 Apr;41(4):821-4.
Dose-response relation between neuromuscular electrical stimulation and upper-extremity function in patients with stroke.
Hsu SS, Hu MH, Wang YH, Yip PK, Chiu JW, Hsieh CL.
Neurorehabil Neural Repair. 2011 Nov-Dec;25(9):830-7.
Effectiveness of hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation therapy in patients with subacute stroke: a randomized controlled pilot trial.
Shindo K, Fujiwara T, Hara J, Oba H, Hotta F, Tsuji T, Hase K, Liu M.
Mobility training after hip fracture: a randomised controlled trial.
Moseley AM, Sherrington C, Lord SR, Barraclough E, St George RJ, Cameron ID.
Age Ageing. 2009 Jan;38(1):74-80.
今月の英文抄読は大規模なRCTです。
股関節骨折後の異なる二つのエクササイズプログラムの効果を評価者ブラインドRCTにて比較しています。対象は股関節骨折のため外科的固定実施後、入院リハビリテーションに移行した160名です。
他のリハビリテーション戦略に付加して、介入群は立位での多量(higher dose)のエクササイズを受け、比較対照群は座位もしくは背臥位での少量(lower dose)のエクササイズを受けています。
一次アウトカムメジャーは骨折側の膝伸展筋力と歩行速度であり、介入後およびフォローアップに群間差を認めませんでした。しかし、サブグループ解析では認知症を合併する患者において多量群がより大きな改善を示しました。
本邦でも大腿骨骨折後のリハビリテーションは最も重要なテーマの一つです。しかしながら、有効とされるリハビリテーション介入のエビデンスは依然乏しいのが現状です。医療費抑制の渦中、急性期病院における入院期間はどんどん減少し、術後のリハビリテーションはその根本から変革しなければならない時期にきていると思います。そんな中、物理療法が活躍できる要素は多分にあると考えております。
我々は急性期から回復期にかけて、いかに廃用症候群を予防するか、筋力および痛みを改善させるか、ADLを早期に改善し、QOLの向上を図るか、その一つの補助ツールとして電気刺激の応用を試みております。結果は順次報告していきたいと思います。
本日は和歌山国際厚生学院の北裏先生による人工透析治療を受けておられる慢性腎不全患者の運動療法についてレビューしていただきました。腎不全患者さんの骨格筋萎縮は予後予測においても重要な指標であり、アシドーシスやprotein-energy malnutrition(PEM:骨格筋などの体構成蛋白の減少と血清蛋白成分の減少を伴う栄養障害),内科的合併症,副腎皮質ステロイドの使用,加齢,酸化ストレス,透析治療,活動性低下など,すべての要因が筋線維の減少や萎縮,筋肉内脂質の産生に著しく影響しているとされています。当然ながら、この筋萎縮は活動や参加レベルに影響するのはもちろんのこと、生命予後にさえ強くかかわるとされています。長年、重度腎不全や透析患者において運動療法は禁忌とされていましたが、筋力増強や持久力練習といった運動療法の有効性は数多く示されています。しかしながら、臨床ではリスクが高く、またコンプライアンス、アドヒアランスの問題もあり、実際臨床に浸透していないのが実情です。
理学療法においても、必要度は高いにもかかわらず腎不全という疾患別リハは算定できません。そのため、各施設で工夫されながらリハビリテーションが提供されています。
この現状を打開すべく、我々は有効な理学療法を提示していく必要があります。そこで、着目しているのが「電気刺激」です。海外では数本透析中の電気刺激療法が実施されています。筋力増強効果や透析効率の向上など様々なポジティブな結果が報告されています。この電気刺激の最大のメリットは安全かつアドヒアランスの問題も解決できることだと思います。
現在予備的に研究がスタートしておりますので、順次報告して参りたいと存じます。
今回の3本目、Bioness社の新しいFESであるDual-channel FESを用いた予備的な介入研究です。自宅使用での6週間の介入で麻痺側立脚期の割合がまし、歩行速度も向上したとのことです。この機器の詳細は以下のURLをご参照ください。紹介movieも見れます。http://www.bioness.com/L300_Plus_For_Thigh_Weakness.php
本邦ではようやく去年フランスベッドさんが輸入販売を始めておられます。
http://www.francebed.co.jp/brand_site/bioness/index.html
日本製ではOG技研さんとIVES+システムにセンサートリガーモードという簡易のFESシステムが搭載されています。
http://www.og-giken.co.jp/product/physiotherapy/GD611_mode.html
海外ではWalkaideという電気刺激オタクをうならせるこれまた優れたFESシステムがあります。
http://www.walkaide.com/en-US/Pages/default.aspx
にわかに今表面電極制御のFESが盛り上がっております。脳卒中ガイドラインでも推奨されている治療ですが、本邦で使用されている風景はまず見ません・・・。当研究会でも積極的に新たなFESについても研究し、従来の歩行リハビリテーションよりもより効果のある治療法を提案していきたいと考えております。
本日は大阪の村上整形外科にお勤めの西川先生にお越しいただき,二分脊椎症の理学療法の紹介と研究計画を提示していただきました.私自身二分脊椎症のお子さんは担当させていただいたことがなかったため,(研究会のメンバーもほぼなし)非常に貴重なデータの提示に大変興味深くとても勉強になりました.
二分脊椎症では損傷レベルに応じて獲得できる機能予後がおおよそ決まってくるそうですが,成人の脊髄損傷患者さんとは異なり,乳児期,幼少期の発達過程や成長に合わせての理学療法が独特でまた異なった問題点があるそうです.この病院では700例以上の実績があり,まさに経験に基づく理学療法の神髄を見せていただきました.
二分脊椎症では腹臥位や四つ這いなど十分な発達過程を経験できないことがあるためか,下肢体幹機能の成熟に遅れをとる場合があり,また,継続した筋力強化練習も困難な場合が多く,思うように筋力低下が改善しないことがあるそうです.
そこで,電気刺激を有効活用できないかというご相談をうけました.海外ではいくつか報告がありますが,まだまだ効果は未知数で検討すべき課題は山積しております.
研究会でも十分検討し,皆様に有益な情報を提供できるよう少しずつ臨床応用を進めていけると幸いです.
2本目は和歌山国際厚生学院の北裏先生によるマイクロカレント Micro-current electrical nerve stimulation MCENS,MENSのレビューです。MCENSは1960年代、動物の軟部組織の治癒は四肢の再生を根拠に開発され、損傷電流と呼ばれる損傷部位が電気的に負の状態になる理論を応用したものです。その強度は1Aの1000分の1のさらに下、数十~数百μAです。ですので、知覚することはほとんどありません。直流の場合、陽性電極直下では負の電荷を帯びているマクロファージや白血球などが遊走し、陰性電極下では正の線維芽細胞が遊走するとされております。その他基礎研究でも多くの生理作用がうたわれてますが、未だはっきりしない点が多いのも事実です。(私が無知なだけかもしれませんが・・・)。その臨床応用は、難治性の褥創にたいして、THA,TKAのope後の創傷治癒に、足関節捻挫に対して炎症の軽減と組織の早期回復などに使用されています。中でも難治性の下肢静脈潰瘍に関しては従来のドレッシングや圧迫に加えてMCENSの使用にて治療効果の促進やcost-effectiveな点が報告されています。遅発性筋痛に対してもいくつか効果のあった報告があり、どうやら創傷治癒促進に効果的なようです。一方、鎮痛効果については未だ不明な点が多く、その作用機序もはっきりしません。いずれにしても臨床応用やRCTも少なく、エビデンスも乏しい状況ですが、今後より明確な基礎研究やより科学的で良いデザインの臨床研究の報告が待たれるのと、基礎と臨床を継ぐTranslational Researchが課題といったところでしょうか。実際PT分野というよりエステや整骨院、スポーツ現場でよく使用され、市販されている機器も多数あります。電流が小さいのである意味完璧なプラセボが確立できます。理学療法においてどういった分野で活用できるのかについてはまだまだ研究が必要なようですが、臨床に定着していくためにはやはりある程度の作用メカニズムと明確な臨床効果を兼ね備えたサイエンスベースドな結果が求められると思います。
<参考文献>
J Wound Care. 2011 Oct;20(10):464, 466, 468-72.
Modelling the cost-effectiveness of electric stimulation therapy in non-healing venous leg ulcers.
Taylor RR, Sladkevicius E, Guest JF.
Middle East J Anesthesiol. 2009 Oct;20(3):411-5.
Effect of microcurrent skin patch on the epidural fentanyl requirementsfor post operative pain relief of total hip arthroplasty.
Sarhan TM, Doghem MA.
Pain Med. 2011 Jun;12(6):953-60. doi: 10.1111/j.1526-4637.2011.01140.x. Epub 2011 May 31.
Microcurrent transcutaneous electric nerve stimulation in painful diabetic neuropathy: a randomized placebo-controlled study.
Gossrau G, Wähner M, Kuschke M, Konrad B, Reichmann H, Wiedemann B, Sabatowski R.
J Appl Behav Anal. 1998 Fall;31(3):493-6.
Reductions in self-injury produced by transcutaneous electrical nerve stimulation.
Fisher WW, Bowman LG, Thompson RH, Contrucci SA, Burd L, Alon G.
Rehab Manag. 1991 Feb-Mar;4(2):34-5.
Microcurrent therapy; wave of the future?
Wieder DL.
「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して、床や座面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」(Davies, 1985)
これまた理学療法の永遠のテーマであるPusher syndrome,Contraversive pushing,pusher behaviour(PB)であります。急性期症状で3か月以内に消失するものが多いとされ,予後はよいとされていますが,臨床では残存する方も多く経験するところです。PBの存在は予後を悪化させるという報告があります。右半球損傷者が重症化しやすく,病巣は右半球では視床後部,島皮質,中心後回,下前頭回,中側頭回,下頭頂小葉などが関連するとされています。そのメカニズムは,身体軸の偏位,自覚的視性垂直位SVVの偏位,空間無視の存在,視覚、前庭覚、体性覚とは異なるsecond graviceptive systemの存在など多要因であります。その中で,前庭機能と関連するという報告があり,われわれはここに注目しています。前庭刺激には頭部の位置変化や姿勢変化などのほかにカロリック刺激やGVSなどがあります。GVSは非侵襲的に容易にかつ意図する方向への前庭系への調整が可能です。GVSによりSVVを操作することも可能とされており,PB患者の治療に応用できる可能性があります。まだまだ問題は山積みですが,数例に実施したところいい印象で患者さんの受け入れも悪くなく,今年の全国学会ではその一部を発表できるかと思います。ここ何十年とPBの治療に大きな変化はありません。GVS単独ではなく,その前庭刺激作用を上手く利用して効果的な理学療法につなげることができればと考えております。
つづいて当研究会メンバーである和歌山国際厚生学院 福井直樹先生の研究報告。
福井先生は現在,脳卒中後の歩行障害に対する中殿筋への電気刺激の効果を検証しようとされておられます。とある疫学データでは脳卒中患者の約35%が下肢運動麻痺から実用的な機能まで回復することができず,20~25%の患者が物理的な介助なしでは歩行することができないとされており,脳卒中後歩行障害の改善は我々理学療法士にとっても大きな命題の一つです。脳卒中患者さんの歩行障害の原因はさまざまですが,より生活に密着した問題となりうるのが歩行速度の低下や安全性の低下です。中でも股関節外転筋の活動の低下は麻痺側下肢の立脚期の安定性に大きな影響を与え,非対称性の主な原因となったり,歩行速度との関連が指摘されています。一般的に,電気刺激は下垂足drop footを改善する目的で前頚骨筋(あるいは総腓骨神経)に実施される場合が多く,本邦のガイドラインやEBRSR(http://www.kio.ac.jp/~a.matsuo/:日本語版)でも推奨されていますが,中殿筋に実施している研究はほとんどないのが現状です。しかし,近年までのFES研究を踏まえると中殿筋の筋活動も改善できる可能性が大いに考えられます。
まだ予備的研究の段階ですが,順次良い結果を報告できればと考えております。
本日の英文抄読はこちら。ガン性疼痛に関するTENSについて,RCTの報告はかなり少なくて,現状3本程度。
現在がんのリハビリテーションの分野はかなり注目されており,理学療法士が身体機能やADLの向上に寄与できる可能性が示唆されてます。
理学療法士にとって大きな武器である電気刺激の中に,TENSという除痛のツールがありますが,
がんリハの分野ではあまり実施されていません。そもそもガン性疼痛の疼痛管理は投薬が主体ですが,投薬による副作用の問題が付きまといます。そこで,TENSの出番です!!TENSによる鎮痛により投薬量を減らす可能性があります。
しかしながら,まだどういった疼痛に,時期に,部位に,どんなパラメータで,どれくらい,どの程度継続すれば,疼痛が緩和されるのは,まだまだ検討しなくてはならない点が山積みです。
少しでも疼痛が緩和できて,かつ自宅で利用できて,セラピストが電気の調整を行いながらできるだけ投薬量をへらし,運動を確保できればADLやQOLの向上に寄与できるのではと考えております。
透析中よく問題になるのが透析中の低血圧です.透析前,中,後の低血圧は生命予後に大きく影響を及ぼすとされております(Shoji,2004).透析中低血圧を予防するために様々な物理療法が用いられています.代表的なものに空気圧マッサージ(ハドマー,メドマー等)があります.これらは下肢圧迫により静脈還流を促すことで血圧を増大させるという試み(スターリングの法則)です.しかしながら,先行研究では相反するエビデンスが報告されており,未だその効果は不明です.
他のモダリティーはどういったものがあるのでしょうか?理論的に有効だと考えられるのはもちろん電気刺激です.下腿三頭筋への電気刺激により筋ポンプ作用を利用して静脈還流を促すという方法です.この方法はDVTの予防など古くから実施されておりましたが(高取ら,2003,http://ci.nii.ac.jp/naid/110003993177),近年透析中における応用が試みられています.
下肢に対する電気刺激にて循環動態がどう変わるか,この視点では先ほどのDVT含め,心疾患,末梢動脈疾患など様々な疾患に応用されています.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23312939
J Vasc Surg. 2013 Mar;57(3):714-9.
Calf muscle stimulation with the Veinoplus device results in a significant increase in lower limb inflow without generating limb ischemia or pain in patients with peripheral artery disease.
Abraham P, Mateus V, Bieuzen F, Ouedraogo N, Cisse F, Leftheriotis G.
この研究は,腓腹筋への電気刺激が,末梢血管疾患PAD患者の動脈血流と組織酸素含有量への効果を検証しています.結果,筋虚血または疼痛を誘発せずに動脈血流を有意に増大させたと報告されています.しかし,PAD患者の歩行量改善の補助的な治療手段として使用できるかはまだ明らかではありません.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19169019
Blood Purif. 2009;27(1):58-63.
Enhancing hemodialysis efficacy through neuromuscular stimulation.
Madhavan G, Nemcek MA, Martinez DG, McLeod KJ.
この報告では下腿三頭筋に周波数45Hzにて電気刺激を8週間実施しており,透析中に除水率の改善と血圧降下の緩徐に寄与した可能性を示しています.
当研究会の北裏真己,吉田陽亮は透析患者への電気刺激療法の予備的研究を実施しております.予備的研究では健常者に対する下肢への10分間の電気刺激にて有意な血圧の増大,一回拍出量の増大を確認しました.今後,透析中の低血圧予防と身体機能改善に対するリハビリテーションの実現に向けて,症例への実施例を含め逐次ご報告できればと考えております.
Levine M, McElroy K, Stakich V, Cicco J.
Orthopedics. 2013 Mar;36(3):e319-24.
Stevens-Lapsley JE, Balter JE, Wolfe P, Eckhoff DG, Kohrt WM.
Phys Ther. 2012 Feb;92(2):210-26.
Petterson SC, Mizner RL, Stevens JE, Raisis L, Bodenstab A, Newcomb W, Snyder-Mackler L.
Arthritis Rheum. 2009 Feb 15;61(2):174-83.
Avramidis K, Karachalios T, Popotonasios K, Sacorafas D, Papathanasiades AA, Malizos KN.
Orthopedics. 2011 Mar 11;34(3):175.
以上の4つの研究から要点をまとめると
NMESのメリットは
1)患者は、適切な強度で随意的な筋力増強訓練ができない術直後に随意収縮の障害を呈している。
2)NMESは自己管理でき、毎日効果的に実施できる。
3)NMESは適切な用量にて、筋力、身体機能、健康面で劇的かつ持続的な改善をもたらす
こととまとめられています.
我々の研究会でも,TKA後,ACL後の筋力増強にNMESを付加する研究を実施しております.大和橿原病院の吉田先生らによる研究において,TKA後感覚刺激NMESにおいても刺激なし群と比較して術後有意な筋力の改善を認めております(日本物理療法学会会誌,in press)
この感覚刺激は上記研究のNMESよりも痛みが少ない(ほぼない)ため,患者さんの受け入れがよく,コンプライアンスを高める方法としてはアリなのではと考えております.
研究成果は順次HPにアップしてまいります.
Towards a mechanism-based view on post-stroke shoulder pain: theoretical considerations and clinical implications.
Roosink M, Renzenbrink GJ, Geurts AC, Ijzerman MJ.
激務で勉強会内容のご報告がおろそかになってしまい,申し訳ございません.激務はただの言い訳です.今年は復習もかねてしっかりアップしたいと思います.
というわけで,新年一発目.健常者に対するGVSと肩の痛みに関するレビューです.GVSはマニアックすぎるのでもう少しまとまってから報告いたします.
オランダの研究者Roosink氏によるレビューとここ五年の脳卒中後肩の痛み(post-stroke shoulder pain: PSSP)についてレビューしました.以下に要点を書きます.
•現在のところ,Post-stroke shoulder pain(PSSP)のメカニズムの理解について未だ明確ではない
•理論的に,PSSPは侵害受容性,または中枢性神経因性疼痛かその両方であるとされる
•加えて,PSSPの始まりの責任機構はそれが持続する機構と異なるかもしれない
•この関係は脳卒中後疼痛の診断と治療の関係に問題を投げかける
•しかし,PSSPにおいて報告されたそれぞれの症例は単に脳損傷や上肢の軟部組織の損傷がPSSPの患者の主要な要因を占めていると考えられている
•軟部組織損傷は患者自身による管理の不足に組み合わさって脳卒中後の神経筋制御の低下によって生じる可能性があり,結果として体性感覚や認知機能の障害も認める
•上肢の運動障害は多くの日常生活を遂行するために運動の自由度が多く,そのため損傷する傾向にある
•そして,外傷はたびたび,反復する微細な,あるいは持続的な微細損傷によって軟部組織損傷が生じる
•加えて,不活動の長期化や代償の使用,痛みによる非正常な運動パターン,運動制御の低下は結果として痛みを侵害疼痛の進行に寄与する
•長期的な侵害受容は脊髄と上脊髄ニューロンレベルの両方で構造的再構成を生成する.
•感作が永続的になるように無害の刺激でさえ痛みになる
•加えて持続的な侵害受容(刺激?)はDNICの永続的活性化につながる可能性があり,結果として内因性抑制が無効になる
•脳卒中後中枢性疼痛は脳卒中による感覚入力の欠如が直接的な抑制の欠如,もしくは増大した上脊髄侵害受容の促通によるものである可能性がある
•一方で,脳損傷は脊髄侵害受容の促通もしくは脱抑制を引き起こす.また,情動や認知や自律神経の変化も生じさせる
•認知(注意)や情動(不安)は二次的な慢性疼痛に移行させる可能性があり,結果として患者の社会環境(対人関係)の変化を引き起こし,疼痛行動の増加やPSSPの持続に寄与する
この病態を示すわかりやすいモデル図がこの文献には提示されています.
リハ介入は不使用,無視,感覚障害,運動麻痺,情動,自律神経系,麻痺側の管理,早期の鎮痛などどのあたりに介入すべきかをわかりやすく解説してくれています.各病期によっても病因が異なってくることも注目すべきことだと思います.
その他の文献もレビューしましたのでご参考までに.
Stroke. 2007 Feb;38(2):343-8.
Shoulder pain after stroke: a prospective population-based study.
Lindgren I, Jönsson AC, Norrving B, Lindgren A.
Eur Neurol. 2011;66(3):175-81.
Enhanced-MRI and ultrasound evaluation of painful shoulder in patients after stroke: a pilot study.
Pompa A, Clemenzi A, Troisi E, Di Mario M, Tonini A, Pace L, Casillo P, Cuccaro A, Grasso MG.
J Rehabil Med. 2012 Jun 7;44(7):553-7.
Sonography and physical findings in stroke patients with hemiplegic shoulders: a longitudinal study.
Pong YP, Wang LY, Huang YC, Leong CP, Liaw MY, Chen HY.
J Physiother. 2013 Dec;59(4):245-54.
Combined arm stretch positioning and neuromuscular electrical stimulation during rehabilitation does not improve range of motion, shoulder pain or function in patients after stroke: a randomised trial.
de Jong LD, Dijkstra PU, Gerritsen J, Geurts AC, Postema K.
ClinRehabil. 2012 Sep;26(9):807-16.
Functional orthosis in shoulder joint subluxation after ischaemic brain stroke to avoid post-hemiplegic shoulder-hand syndrome: a randomized clinical trial.
Hartwig M, Gelbrich G, Griewing B.
Stroke. 2013 Nov;44(11):3136-41.
Suprascapular nerve block for shoulder pain in the first year after stroke: a randomized controlled trial.
Adey-Wakeling Z, Crotty M, Shanahan EM.
当院でも5年間のカルテから肩の痛みの有病率を算出しましたが,約38%と先行研究とよく似た結果になりました.かといって明確な介入ができていないのが現状です.肩の痛みはその後の機能予後やQOLに影響を与え,メンタル面にも大きな影響を及ぼします.脳卒中患者さんの主要な問題点の一つですが,これといってまだ決定打がありません.何とかこの問題を解決すべく研究を続けていきたいと思います.
現在、FES(機能的電気刺激)は脳卒中患者の運動障害の改善に用いられています。元々はFESはあくまで機能再建として用いられていました。いわゆる補装具と同類と考えらえ、神経補綴
neuroprosthesisとも表現されます。しかしながら、脳の可塑性変化やFESの治療的効果が確認されるとともに、徐々に治療的な使用としてのFESが多く用いられるようになってきました。
すでにFESがFESでなくなってきており(笑)、NMESやTESなど用語の統一を図るべきかもしれません。
話はそれましたが、テクノロジーの進化に伴いFESも劇的に変化してきてます。個人的には、機器の発達と病態のメカニズムの解明、効果の生理学的メカニズム、臨床現場の現実的問題それらがうまくかみ合っていない印象を受けます。我々は理学療法士という立場から実際の臨床の問題点や患者さんの声を聞いて、それを解決する研究を実施しなくてはなりません。その視点を大切にし、今既存のFESを用いて様々な可能性を調査しています。まだまだ問題点は山積みですが、いずれ必ずや臨床現場で活きるFESの報告をしていきたいと思います。
今回小嶌先生がレビューした論文です。ご参考までに。
Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):239-46.
Contralaterally controlled functional electrical stimulation for upper extremity hemiplegia: an early-phase randomized clinical trial in subacute stroke patients.
Knutson JS, Harley MY, Hisel TZ, Hogan SD, Maloney MM, Chae J.
Neurorehabil Neural Repair. 2009 May;23(4):357-65.
Bilateral upper limb training with functional electric stimulation in patients with chronic stroke.
Chan MK, Tong RK, Chung KY.
Arch Phys Med Rehabil. 2007 Jul;88(7):833-9.
Upper-extremity functional electric stimulation-assisted exercises on a workstation in the subacute phase of stroke recovery.
Kowalczewski J, Gritsenko V, Ashworth N, Ellaway P, Prochazka A.
Neurorehabil Neural Repair. 2007 May-Jun;21(3):207-15.
Functional electrical stimulation enhancement of upper extremity functional recovery during stroke rehabilitation: a pilot study.
Alon G, Levitt AF, McCarthy PA.
Stroke. 2010 Apr;41(4):821-4.
Dose-response relation between neuromuscular electrical stimulation and upper-extremity function in patients with stroke.
Hsu SS, Hu MH, Wang YH, Yip PK, Chiu JW, Hsieh CL.
Neurorehabil Neural Repair. 2011 Nov-Dec;25(9):830-7.
Effectiveness of hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation therapy in patients with subacute stroke: a randomized controlled pilot trial.
Shindo K, Fujiwara T, Hara J, Oba H, Hotta F, Tsuji T, Hase K, Liu M.
Mobility training after hip fracture: a randomised controlled trial.
Moseley AM, Sherrington C, Lord SR, Barraclough E, St George RJ, Cameron ID.
Age Ageing. 2009 Jan;38(1):74-80.
今月の英文抄読は大規模なRCTです。
股関節骨折後の異なる二つのエクササイズプログラムの効果を評価者ブラインドRCTにて比較しています。対象は股関節骨折のため外科的固定実施後、入院リハビリテーションに移行した160名です。
他のリハビリテーション戦略に付加して、介入群は立位での多量(higher dose)のエクササイズを受け、比較対照群は座位もしくは背臥位での少量(lower dose)のエクササイズを受けています。
一次アウトカムメジャーは骨折側の膝伸展筋力と歩行速度であり、介入後およびフォローアップに群間差を認めませんでした。しかし、サブグループ解析では認知症を合併する患者において多量群がより大きな改善を示しました。
本邦でも大腿骨骨折後のリハビリテーションは最も重要なテーマの一つです。しかしながら、有効とされるリハビリテーション介入のエビデンスは依然乏しいのが現状です。医療費抑制の渦中、急性期病院における入院期間はどんどん減少し、術後のリハビリテーションはその根本から変革しなければならない時期にきていると思います。そんな中、物理療法が活躍できる要素は多分にあると考えております。
我々は急性期から回復期にかけて、いかに廃用症候群を予防するか、筋力および痛みを改善させるか、ADLを早期に改善し、QOLの向上を図るか、その一つの補助ツールとして電気刺激の応用を試みております。結果は順次報告していきたいと思います。
本日は和歌山国際厚生学院の北裏先生による人工透析治療を受けておられる慢性腎不全患者の運動療法についてレビューしていただきました。腎不全患者さんの骨格筋萎縮は予後予測においても重要な指標であり、アシドーシスやprotein-energy malnutrition(PEM:骨格筋などの体構成蛋白の減少と血清蛋白成分の減少を伴う栄養障害),内科的合併症,副腎皮質ステロイドの使用,加齢,酸化ストレス,透析治療,活動性低下など,すべての要因が筋線維の減少や萎縮,筋肉内脂質の産生に著しく影響しているとされています。当然ながら、この筋萎縮は活動や参加レベルに影響するのはもちろんのこと、生命予後にさえ強くかかわるとされています。長年、重度腎不全や透析患者において運動療法は禁忌とされていましたが、筋力増強や持久力練習といった運動療法の有効性は数多く示されています。しかしながら、臨床ではリスクが高く、またコンプライアンス、アドヒアランスの問題もあり、実際臨床に浸透していないのが実情です。
理学療法においても、必要度は高いにもかかわらず腎不全という疾患別リハは算定できません。そのため、各施設で工夫されながらリハビリテーションが提供されています。
この現状を打開すべく、我々は有効な理学療法を提示していく必要があります。そこで、着目しているのが「電気刺激」です。海外では数本透析中の電気刺激療法が実施されています。筋力増強効果や透析効率の向上など様々なポジティブな結果が報告されています。この電気刺激の最大のメリットは安全かつアドヒアランスの問題も解決できることだと思います。
現在予備的に研究がスタートしておりますので、順次報告して参りたいと存じます。
今回の3本目、Bioness社の新しいFESであるDual-channel FESを用いた予備的な介入研究です。自宅使用での6週間の介入で麻痺側立脚期の割合がまし、歩行速度も向上したとのことです。この機器の詳細は以下のURLをご参照ください。紹介movieも見れます。http://www.bioness.com/L300_Plus_For_Thigh_Weakness.php
本邦ではようやく去年フランスベッドさんが輸入販売を始めておられます。
http://www.francebed.co.jp/brand_site/bioness/index.html
日本製ではOG技研さんとIVES+システムにセンサートリガーモードという簡易のFESシステムが搭載されています。
http://www.og-giken.co.jp/product/physiotherapy/GD611_mode.html
海外ではWalkaideという電気刺激オタクをうならせるこれまた優れたFESシステムがあります。
http://www.walkaide.com/en-US/Pages/default.aspx
にわかに今表面電極制御のFESが盛り上がっております。脳卒中ガイドラインでも推奨されている治療ですが、本邦で使用されている風景はまず見ません・・・。当研究会でも積極的に新たなFESについても研究し、従来の歩行リハビリテーションよりもより効果のある治療法を提案していきたいと考えております。
本日は大阪の村上整形外科にお勤めの西川先生にお越しいただき,二分脊椎症の理学療法の紹介と研究計画を提示していただきました.私自身二分脊椎症のお子さんは担当させていただいたことがなかったため,(研究会のメンバーもほぼなし)非常に貴重なデータの提示に大変興味深くとても勉強になりました.
二分脊椎症では損傷レベルに応じて獲得できる機能予後がおおよそ決まってくるそうですが,成人の脊髄損傷患者さんとは異なり,乳児期,幼少期の発達過程や成長に合わせての理学療法が独特でまた異なった問題点があるそうです.この病院では700例以上の実績があり,まさに経験に基づく理学療法の神髄を見せていただきました.
二分脊椎症では腹臥位や四つ這いなど十分な発達過程を経験できないことがあるためか,下肢体幹機能の成熟に遅れをとる場合があり,また,継続した筋力強化練習も困難な場合が多く,思うように筋力低下が改善しないことがあるそうです.
そこで,電気刺激を有効活用できないかというご相談をうけました.海外ではいくつか報告がありますが,まだまだ効果は未知数で検討すべき課題は山積しております.
研究会でも十分検討し,皆様に有益な情報を提供できるよう少しずつ臨床応用を進めていけると幸いです.
2本目は和歌山国際厚生学院の北裏先生によるマイクロカレント Micro-current electrical nerve stimulation MCENS,MENSのレビューです。MCENSは1960年代、動物の軟部組織の治癒は四肢の再生を根拠に開発され、損傷電流と呼ばれる損傷部位が電気的に負の状態になる理論を応用したものです。その強度は1Aの1000分の1のさらに下、数十~数百μAです。ですので、知覚することはほとんどありません。直流の場合、陽性電極直下では負の電荷を帯びているマクロファージや白血球などが遊走し、陰性電極下では正の線維芽細胞が遊走するとされております。その他基礎研究でも多くの生理作用がうたわれてますが、未だはっきりしない点が多いのも事実です。(私が無知なだけかもしれませんが・・・)。その臨床応用は、難治性の褥創にたいして、THA,TKAのope後の創傷治癒に、足関節捻挫に対して炎症の軽減と組織の早期回復などに使用されています。中でも難治性の下肢静脈潰瘍に関しては従来のドレッシングや圧迫に加えてMCENSの使用にて治療効果の促進やcost-effectiveな点が報告されています。遅発性筋痛に対してもいくつか効果のあった報告があり、どうやら創傷治癒促進に効果的なようです。一方、鎮痛効果については未だ不明な点が多く、その作用機序もはっきりしません。いずれにしても臨床応用やRCTも少なく、エビデンスも乏しい状況ですが、今後より明確な基礎研究やより科学的で良いデザインの臨床研究の報告が待たれるのと、基礎と臨床を継ぐTranslational Researchが課題といったところでしょうか。実際PT分野というよりエステや整骨院、スポーツ現場でよく使用され、市販されている機器も多数あります。電流が小さいのである意味完璧なプラセボが確立できます。理学療法においてどういった分野で活用できるのかについてはまだまだ研究が必要なようですが、臨床に定着していくためにはやはりある程度の作用メカニズムと明確な臨床効果を兼ね備えたサイエンスベースドな結果が求められると思います。
<参考文献>
J Wound Care. 2011 Oct;20(10):464, 466, 468-72.
Modelling the cost-effectiveness of electric stimulation therapy in non-healing venous leg ulcers.
Taylor RR, Sladkevicius E, Guest JF.
Middle East J Anesthesiol. 2009 Oct;20(3):411-5.
Effect of microcurrent skin patch on the epidural fentanyl requirementsfor post operative pain relief of total hip arthroplasty.
Sarhan TM, Doghem MA.
Pain Med. 2011 Jun;12(6):953-60. doi: 10.1111/j.1526-4637.2011.01140.x. Epub 2011 May 31.
Microcurrent transcutaneous electric nerve stimulation in painful diabetic neuropathy: a randomized placebo-controlled study.
Gossrau G, Wähner M, Kuschke M, Konrad B, Reichmann H, Wiedemann B, Sabatowski R.
J Appl Behav Anal. 1998 Fall;31(3):493-6.
Reductions in self-injury produced by transcutaneous electrical nerve stimulation.
Fisher WW, Bowman LG, Thompson RH, Contrucci SA, Burd L, Alon G.
Rehab Manag. 1991 Feb-Mar;4(2):34-5.
Microcurrent therapy; wave of the future?
Wieder DL.
「あらゆる姿勢で麻痺側へ傾斜し、自らの非麻痺側上下肢を使用して、床や座面を押して、正中にしようとする他者の介助に抵抗する」(Davies, 1985)
これまた理学療法の永遠のテーマであるPusher syndrome,Contraversive pushing,pusher behaviour(PB)であります。急性期症状で3か月以内に消失するものが多いとされ,予後はよいとされていますが,臨床では残存する方も多く経験するところです。PBの存在は予後を悪化させるという報告があります。右半球損傷者が重症化しやすく,病巣は右半球では視床後部,島皮質,中心後回,下前頭回,中側頭回,下頭頂小葉などが関連するとされています。そのメカニズムは,身体軸の偏位,自覚的視性垂直位SVVの偏位,空間無視の存在,視覚、前庭覚、体性覚とは異なるsecond graviceptive systemの存在など多要因であります。その中で,前庭機能と関連するという報告があり,われわれはここに注目しています。前庭刺激には頭部の位置変化や姿勢変化などのほかにカロリック刺激やGVSなどがあります。GVSは非侵襲的に容易にかつ意図する方向への前庭系への調整が可能です。GVSによりSVVを操作することも可能とされており,PB患者の治療に応用できる可能性があります。まだまだ問題は山積みですが,数例に実施したところいい印象で患者さんの受け入れも悪くなく,今年の全国学会ではその一部を発表できるかと思います。ここ何十年とPBの治療に大きな変化はありません。GVS単独ではなく,その前庭刺激作用を上手く利用して効果的な理学療法につなげることができればと考えております。
つづいて当研究会メンバーである和歌山国際厚生学院 福井直樹先生の研究報告。
福井先生は現在,脳卒中後の歩行障害に対する中殿筋への電気刺激の効果を検証しようとされておられます。とある疫学データでは脳卒中患者の約35%が下肢運動麻痺から実用的な機能まで回復することができず,20~25%の患者が物理的な介助なしでは歩行することができないとされており,脳卒中後歩行障害の改善は我々理学療法士にとっても大きな命題の一つです。脳卒中患者さんの歩行障害の原因はさまざまですが,より生活に密着した問題となりうるのが歩行速度の低下や安全性の低下です。中でも股関節外転筋の活動の低下は麻痺側下肢の立脚期の安定性に大きな影響を与え,非対称性の主な原因となったり,歩行速度との関連が指摘されています。一般的に,電気刺激は下垂足drop footを改善する目的で前頚骨筋(あるいは総腓骨神経)に実施される場合が多く,本邦のガイドラインやEBRSR(http://www.kio.ac.jp/~a.matsuo/:日本語版)でも推奨されていますが,中殿筋に実施している研究はほとんどないのが現状です。しかし,近年までのFES研究を踏まえると中殿筋の筋活動も改善できる可能性が大いに考えられます。
まだ予備的研究の段階ですが,順次良い結果を報告できればと考えております。
本日の英文抄読はこちら。ガン性疼痛に関するTENSについて,RCTの報告はかなり少なくて,現状3本程度。
現在がんのリハビリテーションの分野はかなり注目されており,理学療法士が身体機能やADLの向上に寄与できる可能性が示唆されてます。
理学療法士にとって大きな武器である電気刺激の中に,TENSという除痛のツールがありますが,
がんリハの分野ではあまり実施されていません。そもそもガン性疼痛の疼痛管理は投薬が主体ですが,投薬による副作用の問題が付きまといます。そこで,TENSの出番です!!TENSによる鎮痛により投薬量を減らす可能性があります。
しかしながら,まだどういった疼痛に,時期に,部位に,どんなパラメータで,どれくらい,どの程度継続すれば,疼痛が緩和されるのは,まだまだ検討しなくてはならない点が山積みです。
少しでも疼痛が緩和できて,かつ自宅で利用できて,セラピストが電気の調整を行いながらできるだけ投薬量をへらし,運動を確保できればADLやQOLの向上に寄与できるのではと考えております。